センタ-長挨拶

 法政大学サステイナビリティ研究センターは、2018年4月、サステイナビリティ研究所(活動期間2013〜2017年度)の研究成果を引継ぐかたちで、法政大学サステイナビリティ実践知研究機構の組織として発足しました。
 研究規模や研究資金は縮小しましたが、「日本及び世界の環境サステイナビリティ研究に貢献する理論的、実証的研究をおこない、また、そのための基盤としてのデータベース構築や環境アーカイブズ構築する」という趣旨・目的は、サステイナビリティ研究所と同じで変わっていません。
 「サステイナビリティSustainability」は、いまや枕詞のように使われています。たとえば、2016年に国連で採択されたSustainable Development Goalsは、17の目標を定めていますが、その分野は、人権、地球環境、富、平和など幅広く、言葉がスローガン化した嫌いもあります。
 しかし、Sustainability概念は奥深く、複雑で、その系譜は、マルサスThomas Malthus『人口の原理』(1798)やJ.S. ミルJohn Stuart Mill『経済学原理』(停止状態について、1848)までさかのぼることができます。この概念が広まったのは、Brundtland Report(Our Common Future、1987)がきっかけでした。同レポートは、持続可能性(Sustainability)を、貧困の克服と環境の保全を両立し、将来世代の必要に応えるべく成長・開発を管理することであると定義し(development that meets the needs of the present without compromising the ability of future generations to meet their own needs)、成長と開発のせめぎ合いや、先進国と発展途上国との利害関係を調整するための考え方として提示したのです。そしてその後、環境のサステイナビリティだけでなく、経済システムや社会集団の持続可能性にまで拡張され、適用されるようになってきました。
 また、別の系譜として、エコロジーの思想も重要で、たとえば、ヘッケルErnst Haeckel『一般形態学』(1866)は、自然の有機的組織に関する知の体系や、相互共存、自然の構造と機能、エネルギーの流れなどの考え方を提示していますし、ソローHenry Thoreau『ウォールデン』(1854)は、機械論的な哲学に対するオールタナティヴとしての自然のなかの暮らしを唱え、自然との共生と格闘すること、自然の生命性を尊重することなどの考え方を示しています。
 このように、サステイナビリティ概念には相当長い歴史がありますが、環境の破壊・劣化に対する危機意識や、それに対応するための価値感の根本的な吟味を伴っています。たとえば、エネルギー構造の転換問題の中心的な課題は、再生可能エネルギー事業の展開ではなく、現代社会を支えている経済・社会構造の問い直しですし、福島第一原発事故による被災からの回復は、このような被災を惹き起こす社会経済構造を問わなければ進展が難しいと考えます。また、起きたことを真摯に記録する意思を欠けば、それに学び、その意味を問う持続性が失われます。
 サステイナビリティ研究センターは、このような問題意識のもと、研究活動を展開したいと考えています。規模も資金も限られていますが、ご支援のほど、どうぞよろしくお願いします。

2018年4月
サステイナビリティ研究センター センター長
長谷部 俊治(法政大学社会学部教授)